2024/07/17 21:00

芥川賞・直木賞の発表日に併せ、半年の間に刊行されたアンソロジーのなかでベスト作品を発表する「小声賞」。

 

4 (2023121~2024531日刊行分が対象) の受賞作品は下記の作品に決定しました。

 

・『小説紊乱(ffeen pub)

【内容紹介】*版元サイトより

 

小説の可能性を模索するべく立ち上げられた出版レーベルffeen pub(フィーン・パプ)から刊行される一冊目の書籍。作品の強度を軸に、ジャンル不問で三十編の小説が収録されています。掌編から中編まで。純文学・SF・ホラー・etc…。無名の新人から芥川賞作家まで。小説観を揺さぶる未知の読書体験をぜひ。

おめでとうございます。

 

以下、選考理由です。


【選考理由】

まず、アンソロジーの定義とは何か?ということから考えていきたい。アンソロジーとは、複数の作家による特定のテーマで執筆された作品をまとめた選集。あるいは、同一作者の作品を特定の基準で選定した作品集のことを指す。

無数に存在する作品のなかからテーマに則した作品を選び、順番や組み合わせを考え、一冊の本に再編集していく。アンソロジーは“寄せ集め” といった蔑称がつきがちだが、職人仕事のような知識が必要であり、アンソロジーを編むということは文学の世界において誇りのある仕事だと考えている。

さて、ここで疑問が出てくる。書き下ろしの作品を収録して、まとめた作品集はアンソロジーと言えるのだろうか?これはアンソロジーというジャンルを語る上で、しばしば議題に上がるテーマである。数ある作品のなかから作品を選び、一冊の本にまとめていくという視点で見れば、書き下ろし作品をまとめた書籍はアンソロジーという枠から外れてしまうのかもしれない。

しかしながら、アンソロジーには必ず、ある視点をもって作品を編む編者の存在がおり、ある視点をもって企画され、生み出された作品は広義の意味でアンソロジーと位置付けて良いのではないかと考えている。

日頃より「世界で一番アンソロジーを売りたい」と述べており、小声賞を主催する書店としては、アンソロジーというジャンルについて原則よりも少し広く捉えていこうと思っている。これは店主がどのようにアンソロジーと向き合うかという一つの表明である。


今回、第4回小声賞の候補に挙げた5作品のなかで、受賞作品として選んだ『小説紊乱』は、小説の可能性を模索するべく立ち上げられた出版レーベル「ffeen pub」より刊行されたアンソロジーだ。嶌山景氏がレーベルの運営と編集を担い、最終的に書籍化するという目的の下、ウェブ上で先行して作品を公開(初出)し、1冊の本を作り上げた。上記にて、書き下ろし作品をまとめた書籍もアンソロジーと判断すると記載したが、だからといって『小説紊乱』を選んだわけではない。候補作品を公正に判断し、受賞作品を決定した。

選考理由として、まずは企画力を挙げることができる。ウェブ上で作品を公開させて完結させるのではなく、最終的に書籍化するというゴールを見せた上での取り組みが挑戦的であり、編者の意思を感じることができた。企画の立ち上がり当初から追っていたが、読者を制作の過程に巻き込み、期待感を抱かせるという姿勢が非常に戦略的でチャレンジングだったと思う。強いて言うとすれば、もっと大きな反響があれば良かったと思わずにはいられないが、大きな仕事を成し遂げた嶌山氏の次の企画に期待したい。

『小説紊乱』の内容を見ていくと、無名の新人から芥川賞作家まで、様々な作品が収録されていることが分かる。下手をしたら、誰も彼もの寄せ集めになってしまう恐れがあるなか、この企画の質を担保するには編者の選定基準が必要になってくる。本作品においては、選者からの作家に対しての信頼を感じ取ることができ、また、選ばれた作家同士も競い合い、作品の質を高め合っていくような姿勢を感じ取ることができ、とても胸を打たれた。

あえて言うとすれば、「無名の新人」という言葉には引っかかる部分がある。“作品の強度を軸に” 選ばれた作品の数々は読者に読ませる力があると思うし、芥川賞作家や今、活躍の幅を広げている作家たちに引っ張られ、全体的にクオリティの高い作品になっている。同じ土俵で戦っている作家同士、無名か有名かという言葉は色眼鏡になってしまう恐れがあり、クオリティの高い作品が並んでいるからこそ、もったいないという印象を受けた。

肩書を問わず、全ての収録作家が3年後、5年後、10年後の文学の世界で名前を聞くようになる姿を想像することができる。もちろん、作家が書き続けているということが前提になるが、将来に向けての萌芽が見えてくるような作品が掲載されている。『小説紊乱』は、そのような期待感を抱かせるアンソロジーだと思う。

将来、どこかで作家の名前を目にしたとき、そういえば『小説紊乱』というアンソロジーがあったことを思い出す機会があればいい。作家にとっても礎となるような一冊になったのではないかと考えている。

将来に思いを馳せながら、作家たちの作品の発表の場を生み出し、文学の世界の広がりや可能性を見せてくれた『小説紊乱』に小声賞を贈ります。

おめでとうございます!